相殺処理の請求書の書き方は?記入にあたっての注意点3つ
公開日:2023年1月6日 更新日:2024年2月16日
企業間取引では一定の期間内の取引金額をまとめて後払いする掛取引を行うことが多くなっています。掛取引では双方に売掛金と買掛金が発生している場合、両者の合意で同じ金額を差し引いて相殺することが可能です。ただし実際に相殺をする際には取引先の承諾を得る必要があります。また、相殺の内容を明確にするために、相殺請求書を発行することが一般的です。今回の記事では、相殺とはどのような取引か、相殺処理を行う際の請求書の書き方や注意点などを詳しく解説します。
TOPICS
相殺とはどのような取引?
相殺取引はどのような状況で行われるのでしょうか。ここでは相殺取引の仕組みや要件について解説します。
相殺取引の仕組み
相殺取引の仕組みを理解するための前提として、企業間における取引の流れについて解説します。一般的に初回の取引など特殊な事情がない限りは、一定の期間内の取引金額をまとめて後払いする掛取引を行います。この場合、売り手となった企業には売掛金が、買い手となった企業には買掛金が生じる流れです。例えばA社がB社に対して30万円の商品を売り、またB社から30万円のサービスを受けた場合、A社はB社に対し売掛金と買掛金が30万円ずつ発生します。A社からB社に、B社からA社に支払いをしても構いませんが、それぞれが持っている売掛金と買掛金を相殺することも可能です。相殺したほうが金銭のやり取りがなくなるため、事務処理にかかる手間を大幅に減らせます。
相殺取引の要件
相殺取引をするには、法的な要件を満たさなければなりません。まず当事者双方が互いに商品やサービスの掛取引をしているなど、債務を有している状態であることが求められます。また異なる目的の債権は相殺できません。さらに法律上相殺が禁止されていたり、相殺禁止の特約を結ばれていたりした場合も相殺の対象外となります。
お互いの債務の支払期限が到来していることも要件の一つです。例えばA社からB社への支払期限が10月31日で、B社からA社への支払期限が11月30日だったとします。この場合、10月31日にA社からB社へ相殺を申し出ることはできませんが、B社からA社へ申し出ることは可能です。
相殺取引のメリット・デメリット
相殺取引をすることで双方にメリットがあります。一方、状況によってはどちらかにデメリットとなることもあるため、相殺取引をしたほうがいいのかを慎重に検討することが大切です。ここでは相殺取引のメリットとデメリットについて解説します。
相殺のメリット
相殺取引をするメリットの一つが、実際に現金のやり取りをする必要がなくなることです。送金にかかる手数料や事務処理をする手間も省けます。また相殺には担保機能としての役割があることもメリットです。例えばA社とB社とで互いに売掛金を100万円ずつ有していたとします。本来は支払い期日が到来したら、お互いに支払いを行う流れです。
しかし何らかの理由でB社からA社へ売掛金の支払いができなくなったとします。この場合、A社もB社に対して売掛金の支払いをしなければ、お金は出ていきません。売掛金の回収はできないもののお金も出ていかないので、結果として損をしなくて済みます。相殺取引が認められていることで、双方に公平な結果が生じます。
相殺のデメリット
相殺することの大きなデメリットの一つが、支払いのタイミングにずれが生じることです。相殺したい債権の支払い期日が違っていた場合は、どちらか一方が実際の支払い期日よりも早く支払いをしなければなりません。例えばA社の支払い期日が10月30日、B社の支払い期日が11月30日だったとします。それぞれの債権を相殺した場合、10月30日のA社からB社への支払いは行われないことになります。11月30日にB社からA社へ支払いをする必要はなくなるものの、本来あるはずの入金もないため、一時的に資金繰りが厳しくなるかもしれません。資金繰りが厳しくなると判断した場合は、B社の側から相殺を拒絶することは可能です。
相殺処理をする場合の流れ
相殺処理をする場合、まずは取引先に連絡する必要があります。また実際に相殺取引を行うことになったら、どのような手続きをすればよいのでしょうか。ここでは相殺取引をする際の流れを解説します。
事前に取引先に伝える
民法では、相殺は当事者の一方から相手方への意思表示によって行うことができるとされています(第506条1項)。法律上は同意なく相殺しても問題はないことになりますが、ビジネス上では双方が合意の上で相殺が行われることが一般的です。そのため相殺をしたい場合は取引先にその旨をあらかじめ伝えましょう。相殺したい債権の支払期日が異なっていた場合は、取引先が本来の支払い期日よりも早く払わなくてはいけない可能性も出てきます。資金繰りの観点から、できれば同意したくないケースも考えられるでしょう。勝手に相殺処理をすることはトラブルの元なので、事前に取引先に伝えた上で了承が得られてから具体的な手続きを進めてください。
相殺請求書を発行する
相殺処理をする際は、相殺請求書を発行します。以下の3点をかならず明記してください。
・相殺前の取引金額
・相殺された金額
・相殺後の支払金額
なお、相殺された金額の先頭には、「-(マイナス)」または「▲(黒三角)」をつけるのが一般的です。商慣習上の扱いとして広く用いられていますが、取引先から指定があった場合はそれに従いましょう。また、どのような取引が行われたかを帳票に記録するのを忘れないでください。自社と取引先とで認識に食い違いがあった場合、取引内容がわかりづらくなり、トラブルに発展する原因にもなります。帳票に記録しておけば、取引先から問い合わせがあった場合にも的確な対応が可能です。
相殺領収書を発行する
相殺処理を行ったことを明確にするため、相殺領収書が発行されるケースもあります。実際には現金のやり取りがなかった場合でも、支払金額と受取金額を差し引いたことを証拠として残すためには領収書が必要です。法律上は相殺領収書を発行しなくても罰せられません。しかし一方の会社が発行した場合、もう一方の会社も発行することになります。特に大企業では内部統制の観点から、相殺領収書の発行・受領を求められることが多いようです。相手先から支払いがないと言われた場合でも、相殺領収書を提示することで自社にも相手からの支払いがなされていない取引の存在を示す重要な資料となります。加えて相殺領収書があれば、担当者でなくても後からやり取りを確認することができます。
相殺請求書の書き方
相殺請求書も請求書の一種であるため、発行日や請求金額、代金の振込先を記載する必要があります。加えて元の請求金額、相殺金額、相殺後の支払金額も記載し、相殺した取引がわかるようにすることが重要です。
相殺請求書の具体的な書き方について例を交えて解説します。まずA社がB社に100万円の売掛金を有し、B社がA社に100万円の売掛金を有していた場合(全部相殺)は以下のように記載します。
・請求金額:1,000,000円
・相殺金額:△1,000,000円
・差引請求額:0円
A社がB社に100万円の売掛金を有し、B社がA社に50万円の売掛金を有していた場合(一部相殺)は、以下のように書き方が変わります。
・請求金額:1,000,000円
・相殺金額:△500,000円
・差引請求額:500,000円
差引請求額が生じるかどうかがポイントです。なお取引先が書き方を指定してきた場合は、指定された書き方に沿って作成するとよいでしょう。
インボイス制度開始後の注意点
令和5年(2023年)10月1日からインボイス制度が開始したため、以下の点にも配慮した対応を行う必要があります。
・登録番号の記載
的確請求書発行事業者として認められた番号を記載しましょう。登録番号は登録通知書や適格請求書発行事業者公表サイト、法人番号公表サイトで確認が可能です。
・適用税率の記載
飲食料品や新聞等、軽減税率の対象となる項目があるため詳細は国税庁のサイトにて確認するとよいでしょう。
・税率ごとに区分した消費税額等の記載
税率(10%、8%)の異なる対象ごとに記載し合計した金額を記載しましょう。
相殺請求書を作成する際の注意点
相殺請求書を作成するには、相殺取引であることを明確にすることが大切です。また、相殺取引があったことを記録しておくことで、後日確認がしやすくなります。ここでは相殺請求書を作成する際の注意点を解説します。
相殺前と相殺後の金額を記載する
相殺請求書には、以下の3点を記載します。
・相殺する前の請求金額
・相殺する金額
・相殺後の金額
具体的な記載方法ですが、以下のいずれかの方法を用いてください。
・相殺前の金額の下に相殺する金額や相殺後の請求金額を記載する
・備考欄に相殺前の金額や相殺後の金額を記載する
・請求書を2枚作成し、一枚は相殺前の金額で請求書を作成し、もう一枚は相殺後の請求金額で請求書を作成する
法律上、書き方に明確な決まりはないため、相殺前・相殺後の金額がはっきりわかれば構いません。ただし取引先から事前に書き方を指定された場合は、それに従います。特に指定がない場合でも取引先の担当者に確認をした上で、書類を作成するとよいでしょう。
相殺金額にはマイナスをつける
相殺金額には、頭にマイナスを示す「-」「△」「▲」などの符号をつけましょう。相殺請求書を作成する目的の一つが、相殺取引が行われた事実を記録に残すことです。そのため相殺した金額が明確にわかるよう、これらの記号をつけておきます。法律上の定めではありませんが、商慣習上はこのように記載することが多いため覚えておきましょう。例えば400万円相殺するなら「-400万円」「△400万円」「▲400万円」と書きます。ただし取引先に事前に確認し、書き方に関する具体的な指示があればそちらを優先して構いません。また実際に取引先に送付する前に、符号のつけ忘れがないかも確認してください。
相殺取引の記録をつける
相殺請求書を発行したら、相殺取引の記録を残しておくこと重要です。請求書の備考欄に相殺処理を行った旨を記録し、保管しておけば問題ありません。後々、取引内容に不透明な点があった場合でも、双方の請求書を突き合わせれば確認できます。加えて相殺処理の仕訳を行う際には、摘要欄に相殺分であることを明記しましょう。これらの記録をつけるのは、取引先とのトラブルを起こさないためにも重要です。相殺取引がお互いの信用によって成り立つものであるため、認識の食い違いが致命的なトラブルを引き起こします。言った、言わないでもめないためにも、取引内容はその時に記録し、いつでもすり合わせられる状態にしておきましょう。
相殺領収書を発行する場合は?
相殺領収書を発行する場合も、いくつか気を付けなくてはいけない点があります。特に相殺領収書の書き方や相殺領収書を発行する際の収入印紙には注意が必要です。ここでは相殺領収書を発行する場合の事務処理について解説します。
相殺領収書の書き方
相殺領収書の書き方ですが、全額相殺と一部相殺の場合で異なります。売掛金と買掛金が同じ金額(全額相殺)の場合、領収書には相殺する金額を記載してください。取引先から先に領収書を受け取っていた場合は、同じ金額で領収書を発行します。取引先から100万円の商品を購入し、100万円のサービスを販売して相殺する場合を考えてみましょう。このときは、100万円と記載された領収書を受け取ると同時に、100万円と記載した領収書を発行します。
次に売掛金と買掛金の金額が異なる(一部相殺)場合は、以下のいずれかの方法を使います。
・相殺前の金額と相殺後の金額の領収書を別々に発行する
・元の金額で領収書を発行し、但し書きに相殺した旨を記載する
取引先の要望も鑑みた上で、どちらの方法を選ぶか決めましょう。なお領収書に但し書きをする際は、明確に相殺する内容や金額を記入しないと正式な書類として認められないので注意が必要です。
相殺領収書を発行する際の収入印紙
相殺領収書の場合でも、金銭の授受が生じていれば収入印紙を貼る必要が出てきます。授受を行った金銭の額が5万円以上の場合、必ず収入印紙を貼った上で、消印も欠かさずに行いましょう。本来必要があったのに請求書に印紙を貼り忘れていたり、消印を忘れたりしていた場合は過怠税の対象となるため注意してください。全額相殺した場合は、相殺領収書に収入印紙を貼る必要はありません。金銭の授受が生じていないためです。一方、一部相殺した場合は金銭の授受が生じているため、相殺領収書に収入印紙を貼る必要があります。領収金額が5万円以上の場合は忘れずに収入印紙を貼りましょう。
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まとめ
同じ取引先に対して売掛金と買掛金が発生している場合、要件を満たせばそれぞれの金額を相殺できます。相殺取引を行った場合は、相殺請求書を発行してどのような取引が行われたかを明確にしましょう。取引先が相殺領収書の発行を求めるケースもあるため、適宜対応してください。実際に相殺処理を行う際は、相殺請求書・領収書の発行など、事務処理上の手間がかかります。請求書や領収書などの送付業務を効率化するなら、電子帳票配信システム『@Tovas』の導入が効果的です。請求書や領収書などの証憑書類も電子ファイル・FAX・郵送とご要望に合わせて配信が可能です。経理業務の効率化のための施策を検討中でしたら、ぜひ導入をご検討ください。